帰国①(臥竜?鳳雛?それともただのドライバー?)
11/13(木)
帰国当日
朝6時起床、シャワーを浴びて最後の片付け。珍しく出発15分前に全ての準備が整いました。最後に屋上に上り、フランク・シナトラの『NEW YORK NEW YORK』を聞きながらエンパイア・ステートビルを眺めます。この曲はヤンキースタジアムでゲーム終了後にいつも流れる曲で、私にとってはNYに対する憧れそのもの。“このちっぽけで最高に刺激的な街で寝起きし、勝負したいんだ”歌詞がすっと心に沁みこみます。そして最後に“この街をどう活かすのかは君次第!”今まで気付かなかったけどそんなこといってたんだ。この歌のとおり、ほんとそうだな。自分はこの街で何を見て、何を感じ、そして何かできたことはあるんだろうか?いつの日か勝負できる時が来るんだろうか?そんなことを考えていると曲が終わり、次の曲が始まったので、最後にエンパイアに一礼してその場を去りました。
8時マンションを出発。今日はオバマがNYに来るとかでひどい渋滞です。ガードマンに知り合いのタクシー運転手を呼んでもらい、8時半、ようやくタクシーに乗り込みました。私は最後の別れをマンハッタンにしようと車窓にかじりついているのですが、タクシーの運転手はうっとうしく次々と話かけてきます。そのうち、オバマが来る話から「オバマが好きか?」という質問になりました。まあ時節柄というのもあるし、貧困層に支持されている(当然タクシードライバー込みと思った)オバマなので、このおじさんもきっとオバマ好きなんだろうと思い、「まあ日本にとってはいいことないけど、景気もこんなだしオバマでいんじゃない!?」といいかげんな返事をした瞬間、鋭い切り返しが返って来ました。「お前はヒロシマ、ナガサキを忘れたのか?」。「は?」オバマと原爆になんの関係が??続けざまに「ロシアに気をつけろ!」。このドライバーおもしれ~!このおじさんただもんじゃない!?既に私の頭からマンハッタンは吹っ飛び、ここから即席政治討論会へ。
おじさんの主張は以下のとおり。アメリカは産業の根幹である製造業をないがしろにし、金融システムを中心とした小手先の金儲け主義に走ってきた。つまり実質的裏づけ価値のないドルを大量にばら撒いて世界中の富を買い集めてきた。しかし、昨今の金融クライシスにおいて錬金術が実はただのめっきであることがばれてしまい、もはや誰もアメリカを相手にしていない。熱狂からさめたアメリカにはもはや売るものは何もなく国力の衰退は免れまい。一方で、ロシアを見てみると大量の原油を背景にいよいよ国力が充実してきている。その膨張政策は政治面にも現れていて、既にイタリアのトップとはかなり深い話し合いにまで発展しているし、我々のお膝元ベネズエラ(アメリカの原油輸入量はサウジに続いて2位らしい)にまで食指を伸ばしている。その外にも旧ソビエト連邦には貧しい国が数多く存在しており、これらの国々と再接近を図っている(グルジアもその一端?)。プーチンは実に狡猾だ…。
こんな時流の中、アメリカ国民はあまりにも鈍感すぎる。上記のように集金システムが崩壊し、今度は生命線である資源が奪われつつある(ベネズエラだけでなく、サウジとの関係も磐石でなくなってきているとのこと)にもかかわらず、内部の憂いにばかり目がいっていてもっとも重要なことに目が向いていない。イタリアとロシアの会談の話も欧州では新聞一面で取り上げられたような内容だったにもかかわらず、アメリカ国内の新聞にはただの一行も出ていないことがそれを物語る。当然、(アメリカ)独自路線を主張する民主党に政権が移った後のことは言うに及ばず!従って、『オバマを当選させるべきでなかった』。
おっしゃるとおり!原油価格下落後の産油国の状況がどうなるのかはよくわからないけど、大局的(オバマの是非は別として)にはそのとおりだと思います。確かに最近のアメリカは国内の救済にばかり目が向きすぎているきらいがあります。7月に来た時にはもう少し国際政治について取り上げていたような気がしますが、金融クライシス、大統領選と立て続けにこなしているうちにマスコミも世論もどんどん視野が狭くなっています。国内の問題が大きいので仕方ないと思いますが、今まで“世界の警察”アメリカの監視のもと動きを拘束されていた勢力にとっては千載一遇のチャンスでしょう。私自身、これらのことは漠然と感じてはいたものの今の今まではっきりと意識していなかったので、おじさんの言葉にははっとさせられました。
このおじさんはいったい何者?かというと、もともとはユーゴスラビアの人で軍事大学(防衛大学みたいなもの?もしかしたら旧陸海軍士官学校のように国のエリートなのかも)を卒業後、某所でエコノミストをやっていたとのこと。90年代の紛争に巻き込まれ、奥さんはそのとき、自身は4年前にアメリカにわたってきたようです。それならば合点がいきます。年齢(既に60歳位)の問題などもあり現時点でタクシードライバーに甘んじていることも、普通のアメリカ人が持ち得ないような国際感覚を持っていることも(少なくともうちのクラスにはパワーバランスの観点から大統領選を論じている子は一人もいませんでした)。割と日本のことは好意的に見てくれているようだったので、お返しに「ストイコヴィッチは最高だ!今も日本のクラブチームで監督やってるよ」というと、初めてにこっと笑って「俺も彼は大好きだ!日本のサッカーもWカップで見ていてとても印象に残っている」と言ってくれました。アメリカの地で、それぞれ違う国を愛するもの同士が心を通わせる、そんなことが普通にできるのもまたアメリカの魅力なんだろうな。
ユーゴのサッカーか…。そういや心なしかオシムに似てたかも。説教くさいところとか。


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